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6/19コミックシティ大阪・4号館イ16a「うそつき。」にてタイバニ空牛本「スピカ、ポラリス、私のシリウス」(A4/P36/300円)出します。天然キングと臆病ビーフのちょっとした告白話。キースに飼い犬がいると判明する前に書いたのでワンコが居ません。あとヒーローの有給についても以下同文。
間に合えばユーリの過去捏造なコピー本(無料配布)も置く予定。
5月に出したTOタルハミ本は、4号館エ28b「lilac」さんスペースにて委託販売させて頂きます。

続きから空牛のサンプル置いときます。

+ + + + + + + + + +


(中略)

 ビルとビルの間、その向こう。果てしない空で、キースは探している。見つかるかも分からない、平常のアントニオだったなら絶対に見つからないと一笑してしまうような、夢見る子供のような探しものを。
「待たせたかい」
「ああ、もうこんだけ飲んじまった」
 空から降りてくるのは青いジャケット、白いスニーカー、外見からはラフな格好にしか見えないブロンドの男。風を操るのをやめた全身からは青い光が消え、内側から発光する青い目はいつもの空色に戻った。たんっ、ジャンプ着地したときのような靴音。
 酒瓶を懐に仕舞って、アントニオはキースに歩み寄った。酒の回った身体は温かい。普段より血の巡りのいい手で、キースの首に触れた。氷のように冷たいそこを辿り、頬や額、耳や頭を撫でさする。これは点検のようなものだ。凍傷になった肌を人の手で温めてやるように、アントニオはこうやってキースを温める。あの日のようなことが起きないよう、キースが体調を崩さないように。
「バイソンくんは温かいなあ」
「空を飛んでたお前に比べられたら、そりゃ温かいだろうよ。じゃあ帰るぞ」
「うん、帰ろう」
 夜空を遊泳した後、キースは決まってアントニオに触れる。腕を抱いたり、手を繋いだり、動けなくなっていたらアントニオにおぶられたり。程度の差はあれ、二人は必ず触れ合っている。アントニオからすれば、親友である虎徹と同じくらいスキンシップしている気分だった。
 遠い祖国の血のせいか、アントニオはスキンシップが嫌いではない。むしろ好きだった。虎徹のようにお節介で世話焼きでこそないが、誰かに触れたいという欲がアントニオの腹の中に少なからず蟠っている。いつもなら虎徹で晴らしていたそれを、今はキースで補っていた。
 キスやセックスがしたいんじゃない、ただ誰かと居たかった。
 恋人でなくてもいい、友人でなくてもいい。人がまばらなバーで一杯空けてから外に出て、電話で誰かとだらだらと喋りながら家まで歩いて着いたらじゃあな、とあっさり通話を切るような。それくらいで良かった。欲が過ぎて女を買いたい程ではない、しかし電話では足りない。
 夜は、寂しいものだ。
 虎徹は最近付き合いが悪い。会社の吸収合併やら新人のバディやらと色々大変なのだろう。誘いを断られるのも日常と化していた。
 寂しさは蓄積する。それを表に出さないよう、他人にがっつかないようにと酒で自分を宥めるのにも限界があった。
 だからアントニオはキースに付き合う。
 ……勿論、キースに付き合う理由は前述のものだけではないのだが。
 彼の探しものはいつまで経っても見つからない。一週間、一ヶ月、一年――きっと彼はそれを追い続け、見つからないまま死ぬかもしれない。そしてアントニオはその身体を受け止める役を請け負っていた。そのときキースより先に死んでいなかったら、の話だが。
 ヒーロースーツの助けもなしに能力を発動し続けて、いつもキースはふらふらだった。風を操る能力、それを長時間発動していたなんて、意識がぼやけて立っていられなくなるのが当たり前だ。アントニオの硬化も長時間の発動が可能だが、正直あまり役に立たない。戦場で弾除けになるくらいなら良い使いどころだが、ネクストは戦争に介入してはならない。その前にヒーローだから戦争も何もあったものではないのだが。
 ネクストの能力に優劣はない。ないのだが、ヒーローとしてのアントニオはキースに憧れずにはいられなかった。風が生み出す真空の刃は鉄をも切り裂き、唯一の弱点たる防御力も背中のジェット機動で全て避け切る。キングは弱点を弱点のままにしない。その向上心、そして実現力に誰もが感嘆の息を吐く。
 アントニオも、また。
「なあ、バイソンくん。私にもそれをくれないか」
「足元ふらついてる奴に酒なんか飲ませられるか。家に戻ってシャワー浴びてからにしろ」
 ジャケットに仕舞った小さなウイスキーを強請られるが、アントニオはぴしゃりと断る。疲労困憊の奴に酒は御法度だ。それこそ寝る準備をしてからでない限り。代わりに発熱したカイロを首筋に当ててやると、うわぁ、と素っ頓狂な声が聞こえてきた。面白い。喉の奥で猫のような笑いが漏れた。
「バイソンくん、酷い。私の頼みを聞いてくれないなんて、おまけに驚かしてくるなんて」
 むすくれた顔は大衆の前のキングオブヒーローではなく、ただのキースだった。可愛げがあって、嫌いじゃない。
 カイロを少し振って、冷えていそうな部位に軽く当ててやる。今が夜で、人もまばらだからできることだ。昼間の大通りではこんなこと出来やしない。恥ずかしいからというのもあるが、この天然キングはアントニオを衆人の前でも気にせず〝バイソンくん〟と呼ぶのだ。そりゃあ、アントニオは野牛と呼ばれても違和感のない立派な体躯の持ち主だ。しかし本人からすれば、素顔のままヒーロー名で呼ばれているようで冷や冷やするのだ。やめて欲しい。
「そこまで身体を冷やすのが悪い。明日風邪を引いても、俺は知らないからな」
 言わない欲をキースで満たし、アントニオは一欠片の心配を口にする。嘘ではない。喋らないことがあるだけで。
 触りたい。けれど、直接触れるのは最初だけ。皮膚にべたべたと触れてはならない。発熱したカイロは彼を温めてくれただろうか。
 どうしてそんなことを勝手に取り決めてしまうのか、アントニオは理解していた。だから欲求を押し留め、諦め、服の上やカイロ越しで我慢する。
 男としての盛りを過ぎ我欲を抑制できる歳になり、これからは枯れていくばかりだと思っていた。男としては切なくなってしまう老化現象、それが役立つ時が来るなんて人生何が起こるか分からないものだ。
 ――アントニオはキースが好きだ。
 色恋を伴った意味での好きだ。
 だがキースはアントニオではないものを見ている。だから、それに対して無理な要求をするつもりはない。そもそも同性のキングオブヒーローに対し、アントニオは想いを告げる気すらなかった。禁忌、立場、関係、年齢、常識、諸々のことが精神を縛り、何よりキースに嫌われたくなかったのだ。きっと彼のことだ、告白したところでアントニオを嫌悪したりはしないだろう。けれどやんわり、バイソンくんとは仲間であり続けたい、そう言うに違いない。それは少年時代の青い失恋よりも辛い要求だ。好きな相手に対し何もなかったかのように同じ態度を貫けだなんて、真綿で首を絞められ続けるより苦しい。
 この齢の恋はいつだって臆病で、歳も人気も差がある奴相手に叶うだなんて欠片も思えやしない。だからアントニオは言わなかった。なるだけ触らず、自分を抑制してキースと接する。苦しいけれど、辛くはなかった。近くにいられれば良かった。頼ってくれるのは嬉しかった。小さな我儘を叶えてやるべきか悩むことすら甘く蕩けるようで、それらは恋というより愛に近かった。
 恋が愛に変わるほど長い間、アントニオはキースを想っている。どれほど年月を経たのかは忘れた。多分キースがヒーローになった後、キングオブヒーローの称号を戴く以前から。臆病と罵られても言い返せないほど長い間、アントニオは恋慕の情を隠してきた。そしてそれは今まで気付かれなかった。それが幸か不幸か、アントニオ自身にも分からない。
「風邪は引くかもしれないな。けれど、そうなったら君が看病してくれるのだろう」
 天然なのか単なる心情の変化なのか、キースはこの「探しもの」が何なのかアントニオに明かしてからというもの、殆ど遠慮をしなくなっていた。ひたすらに奔放で、自分勝手で、しかし皆に向けるよりも自然で綺麗な笑みをアントニオに向ける。
 その一歩近付いたような感覚を、アントニオは夢見る心地で受け止めていた。空色の目は、己の提案が否定されることを想像すらしていない。ただ確信だけを浮かべ、寒さで青くなった唇を笑みの形に動かしていた。
「自惚れんな、俺にだって予定ってもんがあるんだよ」
「こういうときにこそ有給を使うものだよ、バイソンくん。事件がなければ、君は普通の正社員なのだから。かくいう私も有給を使うつもりだ、そう、今使わずにいつ使うっていうんだい」

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